【意義】
データ利用契約書は、データ提供者が自らが保有している顧客のサービス利用日時、サイトの訪問履歴等の提供データをデータ受領者に目的の範囲内で利用させる場合に作成されます。
【データ利用の法的性質】
提供データは、無体物であるため、所有権の対象とならず、所有権の譲渡を観念できないことから、提供データを利用する場合の法的性質については、合意により創出された利用許諾契約と考えられています。
なお、データ利用時のデータ提供者及びデータ受領者の権利義務関係は、上記の利用許諾契約の如何によりますが、それにとどまらず、下記のように一定の場合には、それぞれ著作権法等他の法令によってもデータ提供者が保護されることがあります。
(1)著作権法による保護
⇒提供データが情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものであるときは、著作権法上の「データベースの著作物」に該当し、そのデータベースを創作したデータ提供者は、侵害者に対し、その複製等の利用行為を差し止めること等ができます。
(2)不正競争防止法による保護(営業秘密)
⇒提供データが①秘密として管理されている②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、③公然と知られていないものであるときは、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当し、営業上の利益を侵害されたデータ提供者は、侵害者に対し、不正使用行為を差し止めること等ができます。
(3)不正競争防止法による保護(限定提供データ)
⇒提供データが①業として特定の者に提供する情報として②電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。)により相当量蓄積され、③及び管理されている④技術上又は営業上の情報(⑤秘密として管理されているものを除く。)であるときは、不正競争防止法上の「限定提供データ」に該当し、営業上の利益を侵害されたデータ提供者は、侵害者に対し、不正使用行為を差し止めること等ができます。
(4)民法による保護(不法行為)
⇒データ提供者は、提供データを不正に使用して営業を行っている者に対し、民法の不法行為の規定に基づき損害賠償請求することができます。
【データ利用の定義】
データ利用の定義については、特許法における「実施」、商標法における「使用」等の法令による定義が存在しないため、データ利用契約書に「利用」の定義を「データの編集、加工、分析、統合、第三者提供その他の利用」等の形で定めることが重要です。
【データ提供の形式等】
データ利用契約においては、次のような形でデータ提供の形式等が規定されます。
(1)提供形式(ex.電子ファイル、書面)
(2)提供手段(ex.サーバーへのアクセス、メール送信、郵送)
(3)提供頻度
なお、途中で途切れることなくデータ受領者が提供データを利用できるようにするため、データ提供者は、提供手段を変更するときは、データ受領者に対し、あらかじめその変更内容を通知しなければならないとすることがあります。
【提供データの項目の特定】
提供データの項目が曖昧だと、データ受領者においては、求めていた提供データが提供されないという不満が、データ提供者においては、想定以上の提供データの提供が求められているという不満が、それぞれ生じ、トラブルになるおそれがあるため、提供データの項目をデータ利用契約をもって特定しておく必要があります。
【提供データの利用目的】
データ受領者がデータ提供者の意に反した形で提供データを利用することを防止するため、データ利用契約において、提供データの利用目的(ex.市場調査、製品の製造販売)を規定することが重要となります。
【受領したデータの不足等の確認】
データ受領者は、データ提供者から提供データを受領したときは、一定期間内にその不足等の確認を行い、万一不足等があれば、その期間内にデータ受領者へその旨を通知しなければならないとされることがあります。
この場合、その期間内にデータ受領者が何らの通知をしないときは、データ提供者が提供データの提供を適切に行ったものとして取り扱うことがあります。
【許諾料】
データ利用の許諾料については、主に月額固定料金制又はデータ受領者の売上に伴う従量課金制の二つが考えられます。
【データが個人情報保護法の個人データに該当する場合】
提供データが個人情報保護法上の個人データに該当する場合、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。
これに加えて、個人データの提供者及び個人データの受領者は、それぞれ個人情報保護施行規則で定める事項を記載した契約書等を保存する必要があります。
そのため、提供データに個人データが含まれるときは、データ提供者がデータ受領者へその旨を通知し、併せてデータ提供者が個人情報保護法に基づく手続を履践していることを保証する旨の条項をデータ利用契約に規定することがあります。
【知的財産権の非侵害の保証の有無】
提供データが第三者の知的財産権を侵害しないものであることをデータ提供者がデータ受領者に対して保証する場合と保証しない場合があります。
もし、保証しない場合には、データ受領者が第三者との間で知的財産権の侵害を理由として紛争が生じたときは、データ受領者の責任と費用負担でこれに対応する旨の合意がなされことがあります。
【提供データの非保証】
データ提供者は、次の事項について、保証しないことがデータ利用契約に規定されることがあります。
(1)正確性
⇒提供データに誤りがないこと。
(2)完全性
⇒提供データに欠損がないこと。
(3)安全性
⇒提供データがウイルスに感染していないこと。
(4)有効性
⇒提供データがデータ受領者の目的に適合していること。
【派生データの取扱い】
提供データをデータ受領者が編集、加工、統合等をすることにより生じた派生データをデータ受領者のみならずデータ提供者も利用できるのかが不明確となり得るため、その取扱いをデータ利用契約に規定することが重要となります。
この点については、次のいずれかの内容をデータ利用契約書に定めることが多いといえます。
(1)データ受領者に派生データに関する知的財産権を帰属させ、データ受領者のみが派生データを利用できるとし、データ提供者は、派生データの利用権限を有しないとする場合
(2)データ受領者に派生データに関する知的財産権を帰属させ、データ受領者からデータ提供者にその利用を許諾する場合
(3)派生データに関する知的財産権の帰属及び派生データの利用権限の有無を協議で定める場合
【提供データの漏洩等の発見】
データ利用契約において、提供データの漏洩等を受領者が発見したときは、データ受領者は、データ提供者に対し、直ちにその旨を通知しなければならないとすることがあります。
その上で、もし、その漏洩等がデータ受領者の責めに帰すべき事由により生じたものであるときは、自らの責任と費用負担によりその漏洩等の原因を調査すること及び再発防止策を検討することをデータ受領者に義務付ける場合があります。
【提供データの管理】
データ利用契約においては、提供データの漏洩等を防止するため、提供データの管理について、データ受領者に自己の営業秘密と同等以上の管理を行うことを義務付けることがあります。
また、混在を防止するため、保管先サーバーの区別、保管ファイルの区別等を通じてデータ受領者に対してデータ受領者が自ら保有していた情報と提供データとの区別管理を求めることがあります。
なお、提供データの管理状況について、データ提供者がその報告を求めたときは、データ受領者は、いつでもこれに応じなければならないとすることがあります。
その上で、提供データの漏洩等が生じるおそれがあるとデータ提供者が判断したときは、データ提供者は、データ受領者に対してその管理方法の是正を求めることができるとすることがあります。
【利用状況の報告等】
データ受領者が適切に提供データを利用しているのかを確認するため、データ受領者に報告義務を課す場合があります。
その上でデータ受領者による報告では、提供データの利用状況を調査するのに十分ではないときは、データ提供者に対して自らの費用負担でデータ受領者の事業所等への立入調査を認める場合があります。
ただし、不適切な提供データの利用を抑止するため、立入調査の結果、データ受領者がデータ利用契約に違反して提供データを利用していたことが明らかになったときは、その立入調査の費用については、データ受領者が負担するとする場合があります。
【不可抗力】
データ利用契約においては、通信設備の事故、停電等の不可抗力により、データ受領者が提供データを利用できない場合が生じても、データ提供者は、データ受領者に対し、何らの責任を負わない旨の条項を規定することがあります。
これは、提供データの提供がサーバーでのダウンロードを通じて行われることがあるためです。
【データの返還、廃棄又は消去】
データ利用契約が終了したときは、データ受領者は、以後提供データを利用できないため、データ受領者は、データ提供者の指示に従い、複製物を含む提供データをデータ提供者へ返還し、廃棄し、又は消去することになります。
なお、提供データを利用して製品の販売を行っていた場合には、その製品の廃棄を義務付ける場合があります。