専属実演家契約書の意義


【意義】

専属実演家契約書は、実演家であるアーティストが特定のレコード会社のために独占的にCD収録等を目的として演奏又は歌唱(=これらの行為を実演といいます。)を行い、これによってレコード会社が原盤を制作した上でCD販売及び音楽配信を行う場合に用いられる契約書であり、締結の方法としては、次の種類のものがあります。

 

(1)アーティスト、プロダクション及びレコード会社間の三者間契約とする方法

(2)プロダクション及びレコード会社間の二者間契約とし、併せてプロダクションがアーティストからその契約内容に同意する旨の承諾を得るとする方法

 

 


【実演の収録時期等】

レコード会社がアーティストのアルバムを発売するため、それに必要な実演の収録時期を専属実演家契約書に規定するのが一般的で、例えば、次のように規定されます、

 

「規定例」

(1)1枚目:本契約開始日から〇か月以内

(2)2枚目:本契約開始日から〇年〇か月以内

 

また、実演収録の企画立案、収録日時、収録場所その他の具体的内容の決定については、レコード会社が行うことが併せて規定されることが多いといえます。

 

なお、実務では、どれくらいの収録時間及び収録曲数のアルバムを発売するのかについて、当事者で齟齬が生じないよう、アルバムの収録時間及び収録曲数を規定することがあります。

 

 


【原盤制作費の負担】

スタジオ使用料、編曲料等の原盤制作費をレコード会社が負担する旨の規定が専属実演家契約書に定められます。

 

これによりレコード会社は、著作権法上の「レコード製作者」としての地位を取得することになります。

 

なお、著作権法上の「レコード製作者」の定義は、「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。」とされているため、費用負担の如何は、レコード製作者のとしての地位を取得するか否かに関係ないとも思われますが、レコード製作者となるには、自己の計算と責任において録音することが必要と解されているため、費用負担の如何によりレコード製作者としての地位を取得できる場合とそうでない場合に分かれることがあり得ます。

 

 


【専属的実演】

専属実演家契約は、アーティストが特定のレコード会社のために独占的にCD収録等を目的として実演を行うものであるため、アーティストが他のレコード会社との間で別途CD収録等を目的として実演を行うことを禁止する趣旨を含む契約であると考えられます。

 

そのため、専属実演家契約では、次の行為を禁止する旨の条項が規定されることがあります。

 

(1)契約の有効期間中においては、アーティストが他のレコード会社との間でCD収録等を目的として実演を行うこと。

(2)契約終了後一定期間においては、契約の有効期間中に収録された著作物と同一の著作物について他のレコード会社との間でCD収録等を目的として実演を行うこと。

 

なお、専属実演家契約では、アーティストが上記に違反した場合、レコード会社は、プロダクションに対し、次の措置を要求できるとする場合があります。

 

(1)プロダクションの責任と費用負担によりアーティストが他のレコード会社との間でCD収録等を目的として実演したことにより生じた一切の権利をレコード会社へ移転すること。

 

(2)所定の違約金をプロダクションがレコード会社へ支払うこと。 

 

 


【権利の帰属】

専属実演家契約では、原盤の所有権並びに原盤に収録されたアーティストによる実演及びレコード製作に関する著作権法上の一切の権利がプロダクションからレコード会社に移転し、本契約の有効期間中及びその終了後においてもレコード会社が独占的にその権利を行使できる旨が定められます。

 

この場合のCD販売及び音楽配信の時期、方法、価格等については、レコード会社が決定することになります。

 

ただし、アーティストの実演に関する二次使用料請求権等は、移転しない旨が規定されるのが通常です。

 

 


【印税】

レコード会社は、原盤を利用して実際にCD販売又は音楽配信を行ったときは、次の算定式に従い算定した印税をプロダクションに対して支払うことになります。

 

(1)CD1個を販売した場合の算定式

「(定価(税込)-消費税-ジャケット代)×印税率

 

なお、実務では、レコード会社から買い取ったCDについては、卸売店等において一定の範囲で返品が認められていることから、算定対象となるCDの販売数量は、レコード会社が実際にCDを出庫した数量の8割として計算されることが多いといえます。

 

 

(2)ダウンロード販売を1回行った場合の算定式

「(配信価格(税込)-消費税)×配信控除率×印税率」 

 

なお、実務では、レコード会社において、音楽配信時にサーバーの設備費用、ユーザーサポート費用その他の費用がかかるため、 上記の「配信控除率」を80パーセントに設定することが多いといえます。

 

 


【専属マネジメント契約終了後の処理】

専属実演家契約では、プロダクション及びアーティスト間の専属マネジメント契約が終了した場合でも、レコード会社が引き続きアーティストの専属性を確保できるよう、アーティストに対して速やかに別の新プロダクションに所属するよう努力義務を、プロダクションに対してアーティストが今後所属することになる新プロダクションへ専属実演家契約上の地位を承継させるよう努力義務をそれぞれ課したりします。

 

なお、アーティストが新プロダクションに所属し、新プロダクションが専属実演家契約上の地位をプロダクションから承継するまでの間、レコード会社からにアーティストに対して印税を直接支払うことが規定される場合があります。

 

 


【アーティストの肖像権等】

アーティストは、肖像権及びパブリシティ権を有しているため、レコード会社がCD等の販売の広告宣伝を目的として、アーティストの名称、肖像等を無償で利用できる旨の条項が専属実演家契約において規定されることがあります。