【業務委託契約書(請負型)の意義】
業務委託契約書(請負型)は、委託者が受託者に対して仕事の完成を委託し、受託者が仕事の完成に責任を負う場合に用いられる契約書でシステムの開発業務等で使用されたりします。
業務委託契約(請負型)では、受託者は、委託された仕事を完成させなければならず、業務委託契約(準委任型)と異なり、仕事を完成させる義務を負う形となります。
また、業務委託契約(請負型)は、民法において請負契約が「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約すること」によって成立することが規定されている関係で、業務委託契約(準委任型)とは異なり、民法上、無償という事態が想定されていない契約類型といえます。
【基本契約と個別契約】
業務委託契約(請負型)の中には、委託者と受託者間で継続的に業務の委託を行う場合があるところ、毎回、業務委託契約(請負型)を締結するのは、煩雑であるといえるため、一般的には、次のような形で契約締結が行われます。
(1)基本契約の締結
⇒どの業務委託においても適用される共通の契約条件を基本契約で取り決める形になります。業務委託契約(請負型)が基本契約に該当し、最初に1回だけ取り交わせばそれで足りる形になります。
(2)個別契約の締結
⇒個々の業務委託において独自に取り決める契約条件を個別契約で取り決める形になります。この場合、個々の業務委託の都度、注文書及び注文請書の交付その他これに類する方法により個別契約を締結します。
【個別契約の成立パターン】
基本契約においては、個別契約が「いつどの時点」で成立するのかが規定されることが通常であり、そのパターンとしては、次のものがあります。
(1)委託者から受託者へ注文書を交付し、受託者が注文請書を委託者へ交付したときに個別契約が成立するパターン
(2)(1)のパターンに加えて受託者が委託者から注文書の交付を受けたにもかかわらず、受託者が一定期間内に異議を述べない場合には個別契約が成立したものとみなすとするパターン
【下請法第3条に定める書面等】
委託者が下請法にいう親事業者、受託者が下請法にいう下請事業者に該当するときは、委託者は、個別契約締結時に、受託者に対し、次に掲げる事項を記載した書面を交付し、又は次に掲げる事項を記録した電磁的記録を提供する必要があります。
(1)委託者及び受託者の商号、名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって委託者及び受託者を識別できるもの
(2)発注年月日
(3)受託者の給付内容、委託者が給付を受領する場所、納期及び検収完了期日
(4)報酬額、報酬の支払期日及び支払方法
(5)委託者が業務に関して原材料を受託者に購入させる場合には、その品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法
【基本契約終了時における個別契約の取扱い】
基本契約が終了した場合に、個別契約がどのように取り扱われるのかという問題があるところ、この点にていては、次の対応が考えられます。
(1)基本契約が終了したとしても個別契約が存続するまでの間、引き続き基本契約の効力が存続する方法
(2)基本契約が終了すると個別契約も同時に終了する方法
【委託者の主な義務】
業務委託契約(請負型)における委託者は、主な義務として、報酬支払義務を負います。
なお、上記以外にも次のような義務を委託者が負う場合があります。
(1)材料の提供義務
(2)説明義務
(3)警告義務
(4)仕事の目的物の引取義務
【受託者の主な義務】
業務委託契約(請負型)における受託者の主な義務には、次のものがあります。
(1)仕事完成義務(ex.建物の完成、建物の塗装工事)
(2)仕事の目的物の引渡義務(ex.新築建物の引渡し)
なお、上記の(1)の義務については、どの業務委託契約(請負型)でも存在する要素ですが、建物の塗装工事等のケースのように目的物の引渡しを観念できず、受託者に(2)の義務が存在しない場合があります。
【仕事完成義務の水準】
業務委託契約(請負型)の仕様等において、仕事完成義務の水準が明示されていれば、その水準をもとに受託者が仕事完成義務を履行したか否かが判断されます。
反対にそれが明示されていなければ、契約の趣旨に照らして受託者が仕事完成義務を履行したか否かが判断されます。
例えば、建物の完成を目的とした業務委託契約(請負型)の場合、その契約において、明示の規定がなくとも、社会通念上、受託者は、雨漏りをしない建物を完成させるのは当然と考えられるため、これを受託者が怠っていれば、受託者は、担保責任を負うと考えられます。
【仕事内容の明確化】
業務委託契約(請負型)では、仕事内容を明確に記載した方がよいとされています。その理由としては、次のものが挙げられます。
(1)相違の防止
⇒仕事内容を明確に記載しないと、「頼んでいた話と違う」、「そこまでお願いしていたはず」、「仕事の範囲外の行為だから追加で報酬の支払いをお願いしたい」等といった主張が双方でなされ、相手方との関係で、トラブルになる可能性があるからです。
(2)業務委託契約のうち準委任型と請負型の区別
⇒業務委託契約のうち準委任型になるのか、それとも請負型になるのかを区別する場合には、その業務内容を把握する必要があるためです。
(3)契約不適合責任の有無の判断
⇒仕事内容が明確に規定されていないと仕事の目的物に契約不適合があったか否かを判断できなくなるおそれがあるためです。
【仕様で取り決めるべき事項】
仕様で取り決めるべき事項としては、次のものが挙げられます。
(1)目的物に含まれる付属品
(2)目的物が有すべき性能又は機能
(3)作業費用に影響を及ぼす項目
(4)作業期間に影響を及ぼす項目
【仕様変更】
業務委託契約(請負型)においては、委託者の事情変更等により仕様変更の必要が生じる場合があるところ、仕様変更を安易に許容すると受託者の作業費用又は作業期間が増大し、受託者に悪影響を及ぼすことがあります。
そこで、次のいずれかの形で仕様変更を行うことができる旨を業務委託契約(請負型)に規定することが多いといえます。
(1)仕様変更手続で仕様変更を行う形
⇒この場合、委託者が受託者に対して仕様変更の詳細、仕様変更に伴い増加する報酬額又は延長する納期等を記載した変更提案書を提出し、これについて、委託者と受託者との間で合意したときは、互いに変更契約書を取り交わすことになります。
(2)上記(1)の仕様変更手続によらずに委託者が受託者に仕様変更を請求し、受託者がこれに応じる形
⇒この場合、受託者は、委託者に対し、増加した作業費用について相当な報酬及び必要と認められる納期の延長を請求できる形になります。
【仕事内容を契約締結時に明確にできない場合の対応】
仕事内容を契約締結時に明確にできない場合には、「契約締結後に別途双方で協議の上、双方が記名押印した仕様書で取り決める旨」を業務委託契約(請負型)に規定することになります。
仕様の確定では、受託者が仕様案を提示し、受託者が修正希望を提示する等双方でやり取りを重ねることが多く、どの段階の仕様が最終の仕様になるのかが不明確になるおそれがあるため、仕様の確定については、単に仕様書で行うのではなく、記名押印付の仕様書で行うことが重要となります。
【契約締結前に交付された提案書の位置付け】
業務委託契約(請負型)を締結する前に受託者から委託者へ提案書が交付されていた場合、業務委託契約(請負型)とその提案書は、一体をなすものとして、提案書も業務委託契約(請負型)の一部になることがあります。
【業務委託契約(請負型)の報酬の支払時期】
業務委託契約(請負型)の報酬の支払時期は、民法上、次のように取り扱われます。
(1)仕事の目的物の引渡しを要する場合
(受託者が仕事完成義務+仕事の目的物の引渡義務を負っている場合)
⇒委託者が受託者へ支払う報酬については、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければなりません。
(2)仕事の目的物の引渡しを要しない場合
(受託者が仕事完成義務を負うものの仕事の目的物の引渡義務までは負わない場合)
⇒委託者が受託者へ支払う報酬については、仕事が完成した後に、支払わなければなりません。
もっとも、上記の民法と同じ取扱いをしてしまうと、報酬の入金が後ろ倒しとなり、作業中に生じる材料の購入、人件費の支出等に受託者が対応できなくなるおそれがあります。
そこで、実務では、「契約締結時に金〇〇円/作業開始時に金〇〇円/検査合格時に金〇〇円」といった形で分割払いにすることがあります。
【仕事の完成前に業務委託契約(請負型)が終了した場合の報酬の取扱い】
仕事の完成前に業務委託契約(請負型)が終了した場合の報酬の取扱いについては、次のように取り扱われます。
(1)委託者の帰責事由により仕事が完成できなくなった場合
⇒受託者が自己の債務を免れたことによって得た利益を委託者へ償還する必要があるものの、受託者は、委託者に対し、全額の報酬を請求することが可能です。
(2)委託者の責めに帰することができない事由によって仕事が完成できなくなった場合
⇒受託者は、委託者に対し、委託者が受ける利益の割合に応じた報酬を請求することが可能です。
(3)仕事の完成前に契約が解除された場合
⇒受託者は、委託者に対し、委託者が受ける利益の割合に応じた報酬を請求することが可能です。
【仕事の目的物の所有権の取扱い】
業務委託契約(請負型)における仕事の目的物の所有権の取扱いは、次のようになっています。
(1)委託者が受託者に対して全部の材料又は主たる材料を提供していた場合
⇒特約がない限り、原始的に委託者に仕事の目的物の所有権が帰属します。
(2)受託者が自ら全部の材料又は主たる材料を提供していた場合
⇒特約がない限り、原始的に受託者に仕事の目的物の所有権が帰属し、これを委託者へ引き渡したときに所有権が移転します。
【危険の移転】
業務委託契約(請負型)における危険の移転については、概ね次のいずれかの形をとることが多いといえます。
(1)目的物の納品時に危険が移転する形
⇒受託者による目的物の納品前に生じた目的物の滅失、毀損、減量その他の損害については、委託者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、受託者の負担とし、受託者による目的物の納品以後に生じた目的物の滅失、毀損、減量その他の損害については、受託者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、委託者の負担とすることになります。
(2)目的物の検査合格時に危険が移転する形
⇒目的物の検査合格前に生じた目的物の滅失、毀損、減量その他の損害については、委託者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、受託者の負担とし、受託者による目的物の検査合格以後に生じた目的物の滅失、毀損、減量その他の損害については、受託者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、委託者の負担とすることになります。
(3)第三者に目的物を引き渡した時に危険が移転する形
⇒受託者が目的物を運送会社、委託者の転売先その他の第三者に引き渡す前に生じた目的物の滅失、毀損、減量その他の損害については、委託者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、受託者の負担とし、受託者が目的物を運送会社、委託者の転売先その他の第三者に引き渡した以後に生じた目的物の滅失、毀損、減量その他の損害については、受託者の責めに帰すべき事由がある場合を除き、委託者の負担とすることになります。
【目的物の引渡遅延】
受託者が業務委託契約(請負型)に定める期日までに目的物の引渡しを行わなかった場合、受託者は、委託者に対し、その期日の翌日から現実に目的物を引き渡した日まで「代金額×遅延利率×遅延日数」により算出された遅延損害金を支払うとする場合があります。
この点、金銭債務の支払遅延に伴う遅延損害金については、年14.6パーセントとすることがありますが、目的物の引渡遅延に伴う遅延利率については、相場というものが明らかではないところがあります。
もっとも、国土交通省が公表している民間建設工事標準請負契約約款(甲)では、目的物の引渡遅延に伴う遅延利率を年10パーセントとしているため、これが一つの参考になるといえます。
また、これ以外にも、実務では、1日当たりの遅延損害金の額が比較的少額になることから、1000分の1(年36.5パーセント)、2000分の1(年18.25パーセント)等と高利率にすることがあり、特に数日の遅延で大きな損害が生じる可能性がある場合には、このような高利率で遅延損害金を設定することがあります。
なお、遅延損害金については、損害賠償額の予定とされるため、特約がなければ、実際の損害額が遅延損害金の額を超えた場合でも、委託者は、受託者に対し、その超過額を請求することができないおそれがあります。
そこで、委託者に遅延損害金を超える損害が生じたときは、別途、委託者が受託者に対してその超過額を請求することができる旨の特約を業務委託契約(請負型)に規定することがあります。
【目的物が納品された場合の法的効果】
受託者から委託者へ目的物が納品された場合、次の法的効果が生じます。
(1)特約がある場合を除き、委託者は、目的物の納品と同時に受託者に対して委託料を支払わなければならない。
(2)特約がある場合を除き、目的物の納品時以後にその目的物が委託者及び受託者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、委託者は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び業務委託契約(請負型)の解除をすることができない。
(3)目的物が納品されたときは、それ以後、特約がある場合を除き、受託者は、委託者に対し、契約不適合責任を負う。
(4)目的物の納品時が下請法の60日ルールの起算時となる。
【検査条項】
「意義」
業務委託契約(請負型)においては、「受託者が仕事を完成させたのか否か?」、「仕事の完成があった場合でもその内容が契約内容に適合するものであるか否か?」をそれぞれ確認するため、委託者による検査条項が規定されます。
この委託者による検査において、受託者が行った仕事が契約で予定した最終工程まで終了しているのであれば、受託者は、委託者に対し、報酬の支払いを請求することができます。
「手順」
検査の手順については、概ね次のような形になります。
(1)受託者から納品された目的物を委託者が検査期間内に検査を実施する。
(2)上記(1)の検査において、委託者は、目的物が契約内容に適合しているときは、合格である旨を、目的物が契約内容に適合していないときは、不合格である旨をそれぞれ受託者へ通知する。
(3)上記(2)で目的物が不合格となったときは、受託者は、目的物の修補等の追完を行い、再度委託者により検査を受ける。
(4)検査期間内に委託者が具体的な理由を示して異議を述べないときは、検査期間の満了日をもって目的物が上記(2)の検査に合格したものとみなす(=みなし検収)。
(補足)上記(3)の追完について、民法第562条第1項で「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは・・」とあり、引き渡された目的物(=納品された目的物)が契約不適合責任の対象となるため、ここでの追完は、契約不適合責任に基づくものとなります。
「手法」
検査の手法としては、委託者が自ら検査を実施する方法のみならず、受託者が試運転を行い、これを委託者が確認するといった方法もあります(主に目的物が機械等の場合)。
この場合、受託者が検査へ立ち会い、委託者へ必要な協力を行わなければならないとすることがあります。
「不合格時の受託者の損害賠償責任」
検査において目的物が不合格となったことにより、受託者が目的物の修補等の追完を行っている場合であっても、そのことをもって債務不履行責任を免れない旨を業務委託契約(請負型)に規定することがあります。
【検査又は検収】
業務委託契約(請負型)において、検査又は検収という用語が用いられることが多々ありますが、その意味は、次のとおりとなります。
(1)検査
⇒委託者が受託者から納品された目的物について、契約不適合があるのか否か等を確認すること
(2)検収
⇒上記(1)の検査に合格したこと
【検査基準】
検査に際して合格基準が明確でないとトラブルになるおそれがあるため、業務委託契約(請負型)において、検査基準を定めることがあります。
その際に複数の検査基準が用いられる場合には、複数の検査基準同士で矛盾抵触が生じる可能性があるため、複数の検査基準間で適用される順位を規定することがあります。
【検査の省略又は簡略化】
受託者が委託者へ目的物を納品する前に自ら「納品前検査」を行うことにより、委託者による検査を省略する場合があります。
このような場合には、委託者が受託者から目的物を受領した時にその目的物が検査に合格したものとして取り扱うことになります(=検査の省略)。
この他にも、目的物の外観及び数量に係る検査のみを行う場合(=検査の簡略化)があります。
なお、検査の省略を行った場合、委託者に課された検査義務を怠ったものとして、商法第526条により受託者が委託者へ契約不適合責任を追及できなくなるおそれがあります。
そこで、業務委託契約(請負型)に検査の省略を定めるときは、受託者が委託者へ契約不適合責任を追及できるようにするため、「商法第526条の規定は、本契約に適用しない。」といった文言を規定することがあります。
【特別採用】
業務委託契約(請負型)において、検査で不合格とされた目的物について、その契約不適合の程度が軽微でり、委託者の工夫により使用可能と判断されるときは、委託者及び受託者間で協議の上委託料を減額した上で委託者の判断により引き取る場合(=特別採用)があります(特別採用の法的性質は、目的物の内容及び委託料についての契約変更の合意となります)。
これにより、不合格となっていた目的物について、再納品する必要がなくなるため、受託者にとっては、委託料の減額はあるものの、再納品の手間を削減できるというメリットがあります。
また、特別採用の対象となる目的物の選別、評価、修理等に要した合理的な費用を委託者が受託者へ請求することができるとする場合があります。
なお、特別採用は、原則として委託者の判断により行われるため、特別採用を行った目的物の契約不適合に起因して第三者に損害が生じた場合の責任については、委託者が負う形にすることがあります。
【納品前検査】
納品前検査を行う場合の流れは、概ね次のとおりとなります。
(1)目的物を納品する前に受託者が検査を行い、目的物に異常又は重大な品質不良があるときは、受託者は、必要な措置を講じ、その記録を作成及び保管する。
(2)受託者は、委託者に対し、(1)で講じた措置の内容、発生状況等を報告する。
(3)委託者は、(2)の報告について、受託者に対して説明を求め、又は改善策を指示することができる。
【契約不適合責任】
受託者が行った仕事の内容が契約内容に適合していない場合には、委託者は、受託者に対し、原則、次の措置をとることができます(受託者の担保責任)。
なお、契約不適合が種類又は品質についてのものであれば、委託者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を受託者に対して通知しないと、委託者は、受託者に対し、次に定める措置をとることができなくなります。
この点、契約不適合が数量についてのものであれば、そのような制限はなく、一般の消滅時効の規律が適用されます。
「履行の追完の請求」
⇒目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しを請求することができます。なお、受託者が履行の追完を行わないときは、委託者は、その追完に係る履行請求権に基づきその履行を強制し、又は契約を解除することができます。また、追完に過分の費用を要するとき(ex.目的物の性能が仕様書に定める基準よりも大幅に下回り、その目的物を修補すると多大な費用が生じるケース)は、履行不能として取り扱われことにより、受託者は、追完義務を負わないとされ、委託者は、受託者に対し、次に定める「報酬の減額請求」をすることができます。
「報酬の減額請求」
⇒委託者が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、受託者がその期間内に履行の追完をしないときは、委託者は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます。なお、履行の追完が不能である場合、受託者が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示した場合等には、委託者は、履行の追完の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができます。
「損害賠償請求」
⇒受託者の責めに帰すべき事由により、仕事の目的物に契約不適合が生じた場合において、次のいずれかに該当するときは、委託者は、受託者に対し、債務の履行に代わる損害賠償請求を行うことができます。
(1)受託者による債務の履行が不能であるとき。
(2)受託者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
(3)債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務不履行による契約の解除権が発生したとき。
「解除」
⇒民法に定める要件を充足すれば、委託者は、催告解除又は無催告解除を行うことができます。
上記において、万一、目的物について不良品が生じたときは、実務では、委託者が受託者に対して「履行の追完の請求」を行うことにより、受託者は、目的物の修理又は交換を行うことになります。
もっとも、目的物が特注品の場合、仕様に定めた性能に達しないといったことで修理が難しい場合もあり、そのような場合には、代金値引きとして、委託者が受託者に対して「報酬の減額請求」を行うことがあります。
【契約不適合の判断】
業務委託契約(請負型)の目的物は、仕様書に基づくものであるため、その契約不適合の判断については、仕様書の内容に基づいて判断され、さらには、取引上の社会通念も考慮されるとされます。
そのため、目的物が形式的に仕様書に合致したものであったとしても、取引上明らかに不適切なものであれば、その目的物について、契約不適合があったものとされます。
【担保責任に基づく権利行使の制限】
受託者が種類又は品質に関して契約内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、委託者は、委託者の供した材料の性質又は委託者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、受託者に対して次に掲げる行為をすることができないとされます。
(1)履行の追完の請求
(2)報酬の減額の請求
(3)損害賠償請求
(4)解除
ただし、受託者がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでないとされます。
【契約不適合責任を追及する場合の通知】
民法では、契約不適合が種類又は品質についてのものであれば、委託者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を受託者に対して通知しなければならないとされていますが、ここにいう「通知」は、契約不適合の内容及び範囲を伝えれば足り、細目まで通知する必要はないとされています。
なお、上記の取扱いは、あくまでも任意規定であるため、契約不適合責任を追及するためには、委託者は、「検査合格後1年以内」に契約不適合である旨を受託者に対して通知しなければならないとすることがあります。
【契約不適合責任の消滅時効等】
契約不適合責任における消滅時効等の取扱いについては、次のようになっています。
(1)契約不適合が種類及び品質によるものである場合
除斥期間⇒受託者に悪意又は重過失がある場合を除き、契約不適合を知った時から1年以内に委託者から受託者に対する契約不適合があった旨の通知が必要
主観的消滅時効⇒委託者が契約不適合を知った時から5年間
客観的消滅時効⇒委託者が仕事の目的物の引渡しを受けた時又は仕事の完成時(引渡しを要しない場合)から10年間
(2)契約不適合が数量によるものである場合
除斥期間⇒なし
主観的消滅時効⇒委託者が契約不適合を知った時から5年間
客観的消滅時効⇒委託者が仕事の目的物の引渡しを受けた時又は仕事の完成時(引渡しを要しない場合)から10年間
上記の除斥期間について、契約不適合が種類又は品質によるものである場合に設けられている理由は、種類又は品質による劣化が経年劣化によるものであるか、それとも受託者の不履行によるものかの判断が不明確になるおそれがあり、受託者を保護するためです。これに対して契約不適合が数量によるものである場合、その不適合が明確であり、紛争を誘発するおそれが低いため、除斥期間による制限がありません。
【委託者が契約不適合責任を追及できる機会】
業務委託契約(請負型)において、委託者が受託者に対して契約不適合責任を追及できる機会としては、次のものが挙げられます。
(1)目的物の引渡しから検査合格までの間
⇒検査により発見できる契約不適合に対応
(2)検査合格後から契約不適合責任の責任期間が満了するまでの間
⇒検査では発見できず、目的物を使用し続けて初めて発見できた契約不適合(ex.品質問題)に対応
【受領遅滞】
受託者が納期に納品した目的物を委託者が正当な事由がないのにもかかわらず、その受領を拒否したときは、受託者は、相当な期間を定めて催告し、委託者がその期間内にその受領を行わなければ、次のいずれか措置の全部又は一部をとることができるとすることがあります。
(1)業務委託契約(請負型)を解除すること。
(2)目的物の第三者への売却その他の処分を行うこと。
(3)受領遅滞により受託者に生じた損害の賠償を委託者へ請求すること。
判例では、委託者について目的物の受領義務を認めておらず、特段の事情がある場合を除き、委託者が目的物の受領を遅滞しても受託者が業務委託契約(請負型)を解除することはできないため、この解除を円滑に行えるようにするためには、上記の合意を業務委託契約(請負型)に規定することが必要になります。
【知的財産権の帰属】
目的物の著作権(著作権法第27条及び同法第28条に定める権利を含みます。)その他の知的財産権(特許を受ける権利等を含みます。)の帰属については、大別して次のいずれかの方法により処理することが多いといえます。
(1)上記の知的財産権が受託者に帰属することを受託者に表明保証させ、かつ、委託者が特許出願等を行う際に受託者がこれに協力することを義務付けた上で検収完了時に上記の知的財産権を受託者から委託者へ移転させ、受託者が著作者人格権を行使しないこととし、委託者が支払う委託料の中に(a)知的財産権の移転の対価+(b)著作者人格権の不行使の対価を含む形
(2)上記の知的財産権を受託者から委託者へ移転させない代わりに受託者が委託者へその実施を許諾することとし、委託者が支払う委託料の中に知的財産権の実施許諾の対価を含む形
【第三者の知的財産権の侵害】
受託者が委託者へ引き渡した目的物が第三者の知的財産権を侵害し、その第三者との間で紛争が生じた場合の受託者の責任について、業務委託契約(請負型)において、次のような内容が規定されることが多いといえます。
(1)委託者へ引き渡した目的物が第三者の知的財産権を侵害しないことを受託者が表明し、保証すること。
(2)委託者へ引き渡した目的物について、第三者との間で紛争が生じたときは、委託者又は受託者が相手方にその旨を通知すること。
(3)受託者が自らの責任と費用負担により、(2)の紛争に対応することとし、委託者がその紛争解決に要する費用を支出し、又はその紛争により委託者に損害が生じたときは、受託者が委託者へその費用を償還し、又はその損害の賠償を行うこと。
【再委託の禁止】
業務委託契約(請負型)は、仕事の完成が契約の目的であり、仕事が完成してさえいればいいため、特約がなければ、受託者は、自由に再委託を行うことができます。
もっとも、受託者のみが仕事を行うことを委託者が希望するときは、業務委託契約(請負型)において、委託者の事前承認がある場合にのみ再委託できる旨の条項を規定することがあります。
なお、この点について、委託者の便宜のため、実務では、受託者が委託者から事前承認を得る際に次に掲げる事項を受託者が委託者へ通知しなければならないとする場合があります。
(1)再委託する第三者の氏名又は名称及び住所
(2)再委託する業務の範囲
(3)再委託先に支払う報酬及び費用
(4)再委託を必要とする理由
(5)その他委託者が再委託の承認を行うのに必要となる事項
【報告義務の有無】
業務委託契約(請負型)については、業務委託契約(準委任型)とは異なり、特約がある場合を除き、受託者は、委託者に対し、業務の処理状況を報告し、又は業務終了後に遅滞なくその経過及び結果を報告する義務を負わない形になります。
【品質管理体制の構築】
受託者が一定程度の品質を有する目的物を委託者へ納品できるようにするため、受託者に工程図、管理記録等の書面整備を義務付けることにより、受託者に品質管理体制の構築を求めることがあります。
その上で受託者の品質管理体制に不備があるときは、委託者が受託者へその改善を求めることができるようにすることがあります。
【中途解約】
業務委託契約(請負型)では、特約がなければ、委託者及び受託者による中途解約については、次のように取り扱われます。
(1)委託者による中途解約
⇒委託者は、いつでも受託者に生じた損害を賠償して中途解約できるとされます。
(理由)これは、仕事の完成を希望しなくなった委託者をいつまでも契約で縛ることに合理性がないと考えられているためです。
1.「損害」の意義
ここにいう「損害」には、受領予定であった委託料を含む受託者の得べかりし利益(逸失利益)+受託者が既に支出した費用+中途解約により必要となった追加費用が含まれるとされ、中途解約により受託者が支出を免れた費用があれば、控除されます。
ただし、受託者に過失があるときは、過失相殺が適用されることがあります。
2.「損害を賠償して」の意義
ここにいう「損害を賠償して」とは、前もって損害賠償をしなければ中途解約することができないという意味ではなく、中途解約をした後に損害賠償する形でも問題ないとされます(中途解約後に損害賠償額が定まるため。)。
ただし、委託者による安易な中途解約を防止したいと考える場合には、特約により、委託者が受託者に対して現実に損害賠償を行ってから、委託者は、中途解約することができるとすることがあります。
(2)受託者による中途解約
⇒委託者による中途解約と異なり、仕事の完成前において委託者が破産手続開始の決定を受けたときに限り、受託者は、中途解約できるとされます。
(理由)これは、受託者がそのまま仕事を続行しても、報酬を回収できる見込みがないことに基づきます。
【委託者による中途解約と受託者の逸失利益等への対応】
例えば、顧客からの委託を受けて委託者が目的物を製作する場合において、その一部を業務委託契約(請負型)を締結することにより受託者へ再委託していたときに、顧客からの委託が中止となり、そのあおりを受けて、受託者との業務委託契約(請負型)を中途解約しなければならないことがあります。
このような場合に、委託者が受託者との業務委託契約(請負型)を中途解約したときは、委託者は、受託者に対し、次の損害を賠償しなければならず、委託者の負担になるおそれがあります。
(1)受領予定であった委託料を含む受託者の得べかりし利益(逸失利益)
(2)受託者が既に支出した費用
(3)中途解約により必要となった追加費用
そこで、委託者が受託者との業務委託契約(請負型)を中途解約した場合に委託者が受託者へ負担する損害賠償の範囲を上記の「(2)受託者が既に支出した費用」に制限し、受託者の逸失利益等を賠償しない形にすることがあります。
【損害賠償責任の制限】
事前に受託者の損害賠償責任の範囲を制限しないと次のような弊害が生じ得るため、業務委託契約(請負型)において、その範囲を制限する旨の合意がなされることがあります(特にシステム開発系の業務委託契約(請負型)において、定められます。)。
(1)公平性の観点
⇒損害賠償額が高額になった結果、受託者が委託者に対して報酬に見合わない損害賠償責任を負担する可能性があり、公平性に欠ける。
(2)公益的な観点
⇒損害賠償額が高額になると受託者の事業が成り立たなくなるおそれがある。
なお、損害賠償責任を制限する主な方法としては、次のようなものがあります。
(1)報酬額を限度とする方法
ex.「乙の甲に対する損害賠償責任は、その原因事由発生時から遡って〇年間に乙が甲から現実に受領した報酬額を限度とする。」
(2)具体的な金額を限度とする方法
ex.「乙の甲に対する損害賠償責任は、債務不履行責任、不法行為責任その他請求原因の如何を問わず金〇〇万円を限度とする。」
(3)請求期間を制限する方法
ex.「損害賠償請求は、成果物の検収完了後〇か月を経過したときは、行うことができない。」
【不可抗力】
「重要性」
天災地変、戦争、暴動、内乱、ストライキ、仕入先の債務不履行、疫病の蔓延、法令の制定又は改廃、公権力による命令又は処分、輸送機関又は通信回線の事故その他の不可抗力により、債務を履行できないときは、受託者は、委託者に対し、何らの責任を負わない旨が業務委託契約(請負型)に規定されることがあります。
受託者が不可抗力事由に該当した場合に、委託者がこれを否定するときは、委託者が受託者に帰責事由があることを立証する必要があるため、どの事由を不可抗力事由として規定するのかは重要な問題となり、不可抗力事由の範囲が受託者の責任の範囲に関係してくることになります。
また、民法では、帰責事由の存否については、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されます。
そこで、どの事由が不可抗力に該当するのかをできるだけ詳細に業務委託契約(請負型)に規定することが重要といえます。
「不可抗力事由として定めることについて実務上問題となる事由」
実務では、次の事由を不可抗力事由として定めることについて、委託者から疑義が出されることがあり、委託者と受託者との間で契約交渉になることがあります。
(1)ストライキ
⇒ストライキを引き起こすような環境にしている場合、受託者にもその責任があるといえるため。
(2)仕入先の債務不履行
⇒他の仕入先が存在している場合、受託者がその仕入先から材料等を仕入れることができるため。
「不可抗力事由が生じた場合の対応」
不可抗力事由が生じ、受託者が業務を実施できないときは、民法の規定により、委託者は、催告することなく直ちに業務委託契約(請負型)を解除することができます。
もっとも、民法の規定に従うと受託者から業務委託契約(請負型)を解除することはできないことになります。
そこで、特約により、まずは委託者と受託者間で協議をし、不可抗力が一定期間継続した段階でどちらか一方から業務委託契約(請負型)を解除できるようにすることがあります。
【個人データの取扱いに関する監督】
個人情報保護法では、委託者が受託者に対して個人データの取扱いの全部又は一部を委託するときは、その取扱いを委託した個人データの安全管理が図られるよう、受託者に対して必要かつ適切な監督を行わなければならないとされているところ、業務委託契約(請負型)では、顧客データ等の個人データの提供が行われることがあることから、業務委託契約(請負型)において、受託者に対して個人データの安全管理措置を講ずるよう義務付けることがあります。
【受託者の競業避止義務】
例えば、食品製造開発の業務委託契約(請負型)においては、委託者が受託者に対して開示した配合割合等のノウハウを利用して、受託者が自ら又は第三者を通じて食品の製造及び販売を行う可能性があり、委託者の売上高減少、ブランド価値の毀損等の事態が生じ得ます。
そこで、業務委託契約(請負型)では、受託者の競業避止義務として、契約の有効期間中及びその終了後一定期間は、委託者から開示された配合割合等のノウハウを利用して、受託者が自ら又は第三者を通じて食品の製造及び販売を行ってはならないと規定されることがあります。
【チェンジ・オブ・コントロール条項】
業務委託契約(請負型)においては、委託者の企業秘密その他の秘密情報が受託者へ開示される場合において、受託者の会社支配権が委託者の競合他社に変動したときは、委託者に影響が及ぶため、受託者の総議決権の2分の1を超えて会社支配権の変動があったときは、委託者の事前の承認を必要とし、受託者がこれを怠ったときは、委託者が業務委託契約(請負型)を解除することができるとすることがあります(その旨の条項をチェンジ・オブ・コントロール条項といいます。)。
【業務委託契約(請負型)と判断される要素】
上記を前提に業務委託契約(準委任型)ではなく、業務委託契約(請負型)と判断される要素としては、次のものがあるとされています。
(1)契約書の表題が請負契約となっていること
(2)受託者が負担する債務の内容に仕事完成義務が含まれていること
(3)目的物の納期を定めること
(4)検査条項が取り決められていること
(5)契約不適合責任の条項が取り決められていること
(6)仕事を完成した場合に受託者が委託者に対して報酬の支払いを請求できること
ただし、上記の要素が存在していた場合でも、実際の運用がこれとは異なるものであるときは、業務委託契約(準委任型)と判断される可能性が出てきます。
例えば、業務委託契約(請負型)と判断されやすくするため、検査条項を取り決めていたのにもかかわらず、実際の運用では、検査を実施していなかったときは、業務委託契約(準委任型)であると判断される可能性が出てきます。