【意義】
演出家契約書は、公演主催者が演出家に対して舞台の演出業務を委託する場合に用いられる契約書をいい、次のいずれかの方法により契約が締結されるのが通常です。
(1)公演主催者が演出家との間で演出家契約を締結する方法
(2)公演主催者が演出家の所属事務所との間で演出家契約を締結する方法
【演出業務】
演出業務の内容として演出家契約において規定される内容は、概ね次のとおりとなり、演出家が舞台の創作面を統括する形になります。
(1)オーディションへの関与及びリハーサルでの指導
(2)舞台の企画会議への参加
(3)キャストの選定に対する意見の具申
(4)舞台プロモーションへの参加
【演出業務の対象となる舞台の詳細の特定】
演出家契約では、舞台のタイトル、上演場所、上演回数等を規定した上で開催予定のオーディション及びリハーサルの場所等の詳細も併せて規定することが重要です。
これは、演出家が演出業務の一環として、オーディション及びリハーサルに参加することに基づきます。
【キャストの最終決定権限】
キャストの選定に際し、演出家は、あくまでもに「意見の具申」を行うだけであるため、キャストを選定する場合の最終決定権限が公演主催者にあることを演出家契約に規定することがあります。
【演出業務の対価】
演出業務の対価には、次の二つの意味合いがあり、舞台が何らかの事情で中止となった場合を考慮して、「リハーサル開始日から〇日以内に〇〇万円、上演開始初日から〇日以内に〇〇万円」等といった形で段階を踏んで分割で支払われることが多いといえます。
(1)演出業務そのものに対する対価
(2)演出家が創作した演出を利用することに対する対価
【著作権及び著作隣接権の帰属】
演出家契約では、演出家に演出の著作権及び著作隣接権が帰属することとし、一定の期間に限り、独占的に公演主催者に次のような内容により、演出の利用を許諾するのが一般的です。
(1)舞台で上演すること。
(2)上演された舞台又はリハーサル風景を録画した録画物を製造販売すること。
(3)上演された舞台又はリハーサル風景を録画した録画物を動画配信に用いること。
(4)上演された舞台又はリハーサル風景を録画した録画物を放送に用いること。
(5)上演された舞台又はリハーサル風景を録画した録画物を広告宣伝に用いること。
上記の(2)から(4)については、演出業務の対価とは別に許諾料を公演主催者が演出家に支払わなければならないとされることが多いといえます。
【舞台の宣伝広告時における演出家の表示】
演出家契約では、舞台の宣伝広告時に用いるポスター、ウェブサイト等に公演主催者が演出家の表示を行う旨が定められます。ただし、表示スペースに制約があることが多いため、その大きさ及び位置については、公演主催者の判断に委ねる形にするのが一般的です。
【広告素材としての利用等】
無償で公演主催者が舞台映像の一部の画像を広告素材として利用し、又は舞台映像の一部の動画をオンライン上で公開できるとすることがあります。
【表明保証】
演出家の演出が第三者の著作権等を侵害している場合、公演主催者が第三者から損害賠償責任を追及されるおそれがあるため、演出家契約では、演出家から公演主催者に対して演出が第三者の著作権等を侵害していない旨の表明保証がなされることがあります。
もし、その表明保証に違反がある場合、公演主催者から演出家に対して自らの損失を補償するよう請求できる形になります。
【舞台の延期】
舞台が延期された場合、演出プランの大幅な変更が生ずるとき等を除き、公演主催者は、演出家に対し、追加で対価を支払うことを要しないとすることがあります。
【舞台実施義務の不存在】
演出家契約を締結したからといって必ず舞台を開催しなければならないとすると、例えば、尽力したのにもかかわらず、配役のイメージに合致する俳優を確保できない場合、公演主催者の債務不履行となるおそれがあり、不都合といえます。
そこで、公演主催者が舞台を実施する義務を負わないとすることがあります。