【意義】
著作権譲渡契約書は、譲渡人が譲受人に対して著作権を譲渡する場合に、その譲渡の条件を取り決めるために用いられる契約書をいいます。
著作権の譲渡は、当事者間の意思表示のみで効力が生じるため、口頭でもこれを行うことが可能ですが、それだと証拠が残らず、譲渡の条件が不明確になるおそれがあるため、契約書を作成することが重要となります。
なお、著作権を譲渡することは可能ですが、著作者の著作者人格権は、著作者の一身専属権であるため、譲渡することはできません。
【共有著作権の場合の対応】
著作物の著作権が共有の場合に、これを第三者に譲渡するときは、著作権法上、共有者全員の同意が必要となります。
【譲渡の条件】
著作権譲渡契約では、譲渡の条件を明確にするため、概ね次の事項を明らかにすることが多いといえます。
(1)譲渡の範囲
著作権は、支分権であるため、著作権の全部を譲渡することのみならず、その一部のみを譲渡することも可能で、例えば、複製権のみを譲渡することも可能です。また、場所又は期間の全部又は一部を制限した譲渡も可能とされます。
なお、著作権法第61条第2項の規定により、著作権のうち、翻案権又は二次的著作物を利用する権利を譲渡の範囲に含めるときは、これらを契約書等において特掲しないと譲渡人に留保されたものと推定されるため、「著作権(著作権法第27条及び同法第28条に定める権利を含む。)」といった形で著作権法上の条文を明示した上で特掲しておく必要があります。
この点について、裁判例では、「将来取得することのあるべき総ての著作権」等という文言では、特掲されているとはいえないとして、翻案権及び二次的著作物を利用する権利の譲渡を認めなかった事例があります。
(2)権利の移転時期
著作権譲渡契約を締結した時点、譲渡代金が支払われた時点等を権利の移転時期として定めることが考えられます。
【著作者人格権の不行使特約】
譲渡人が著作者である場合、後日、譲渡人である著作者により、むやみやたらに著作者人格権を行使されると譲受人が著作物を円滑に利用できなくなるおそれがあるため、例えば、次に定める者に著作者人格権を行使しない旨の特約(=著作者人格権の不行使特約)を定めることがあります(著作権者が著作者ではない場合には、著作権者が著作者に著作者人格権を行使させないことを保証する旨の条項が定められることがあります。)。
(1)譲受人
(2)譲受人から正当に権利を取得した第三者
(3)(2)の第三者から正当に権利を取得した転得者
なお、これ以外のバリエーションとして、著作者は、譲受人には上記と同様に著作者人格権を行使できないようにするものの、これに加えて譲受人が著作者へ第三者に対して著作者人格権の行使を要請できる旨の特約(=第三者への著作者人格権の行使特約)とすることがあります。
【納入】
著作権譲渡契約では、著作権の譲渡に際し、著作物の原版のデータを電磁的な方法で送信し、又はそのデータを記録した媒体を提供する方法により著作物の原版を納入する旨を規定することが多いといえます。
なお、著作物の原版のデータを記録した媒体を提供する方法により著作物の原版を納入するときは、その媒体の所有権の移転時期が問題となるため、いつの時点でその所有権が移転するのかを併せて著作権譲渡契約に規定することがあります。
【表明保証】
著作権の譲渡対象となる著作物が第三者の著作権、肖像権、プライバシー権等を侵害している場合、譲受人は、これらの権利者から差止請求、損害賠償請求等の責任追及を受ける可能性があるため、著作権譲渡契約において、著作権が第三者の権利を侵害していないことを譲渡人が表明保証する旨の条項を定めることがあります。
なお、表明保証違反の効果としては、例えば、譲受人が第三者から権利侵害等の主張を受けたときは、譲渡人が自らの責任と費用負担によりこれに対応することを義務付け、譲受人に生じた損害を譲渡人に賠償させることが考えられます。
【著作権登録】
著作権の譲渡時に著作権登録をしないと第三者に対抗できないことにより、その登録を行う場合があることから、譲渡人よる登録手続への協力義務を明らかにした上でその登録費用をどちらが負担するのかを著作権譲渡契約に規定することがあります(ただし、著作権の譲渡時に著作権登録をするケースは、少ないといえます。)。
【第三者による権利侵害】
譲受人が譲り受けた著作権を第三者が侵害した場合、譲受人がその侵害を排除することとし、譲渡人がこれに協力する形がとられることがあります。
この協力の態様としては、例えば、著作物の創作性が争われた場合に譲渡人が創作の経緯に関連する資料を譲受人に提供することが考えられます。
【著作権の再譲渡禁止】
譲受人は、譲渡人から著作権を譲り受けたときは、第三者に著作権を再譲渡することができます。
ただし、譲渡人が著作者であり、著作者人格権の不行使特約がない場合等においては、譲渡人にとって好ましくない第三者へ著作権が再譲渡されると譲渡人が害されるおそれがあります。
そこで、上記のような場合等においては、著作権譲渡契約には、譲渡人の承諾がある場合を除き、譲受人が第三者へ著作権を再譲渡してはならない旨の条項が規定されることがあります。
なお、著作権の再譲渡禁止の条項は、譲渡人と譲受人との間でしか生じないため、譲受人がこの条項に違反して、第三者へ著作権を譲渡した場合であっても、その再譲渡は、有効とされ、譲渡人は、譲受人に対し、債務不履行責任を追及し得るにとどまります。